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東京地方裁判所 昭和29年(行)44号 判決 1957年3月07日

東京都江戸川区小岩五丁目百三十六番地

原告

鈴慶商店こと 鈴木慶次郎

右訴訟代理人弁護士

関原勇

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

篠川正次

右指定代理人

東京法務局訟務部

第二課長

望月伝次郎

法務事務官 寺内一郎

大蔵事務官 国吉良雄

渡辺勇

右当事者間の昭和二十九年(行)第四四号課税処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十九年三月十三日にした原告の昭和二十七年度分所得税審査決定のうち金十五万円を超過する部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

原告は昭和二十七年度分の所得金額を金十五万円として江戸川税務署長に対し確定申告書を提出したところ、同税務署長はこれを金二十四万九千円と更正したので、原告は法定期間内に再調査の請求をしたが棄却された。原告はこれを不服として更に法定期間内に被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和二十九年三月十三日附で右更正額の一部を取り消したうえ、右所得金額を金十九万八千四百十四円とする旨の審査決定をし、原告は同月十四日その旨の通知を受けた。

しかしながら、被告のなした右処分は原告の生計費の算定を誤つて所得を認定した違法があり、原告の右年度における所得金額は金十五万円にすぎないからこれを超過する部分の取消を求めるため本訴に及んだ、

と陳述し、被告の主張に対し、原告が肩書地において文房具および雑貨類の販売業を営んでいることは認める。また、別表(一)のうち備品、償却引当および生計費の項記載の各数額はこれを争うが、その余の各項および同(二)ならびに(三)の各項記載の各数額はいずれもこれを認める。同(四)の事業所得以外の所得はない。しかして、備品の項の期末および差引残高らんの数額はいずれも金六千円、償却引当の項のそれはいずれも金三千七百六円であり、生計費は金十四万四千八百円である。なお原告は被告係官の調査に対し帳簿を提示して説明し、かつ、取引先についても十分説明してこれに協力をしていると述べ、

立証として、甲第一ないし第七号証、同第八号証の一、二および同第九ないし第十一号証を提出し、原告本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、乙第一、二号証および同第五号証の一ないし三の成立を認め、その余の乙号各証の成立は知らないと答えた。

被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中、原告の昭和二十七年度における所得金額が金十五万円であるとの点および本件審査決定が違法であるとの点は争うが、その余の事実は認める。

と述べ、本件審査決定の適法であるゆえんを次のとおり主張した。

原告は肩書地において文房具および雑貨類の販売業を営んでいる者であるところ、収税官吏の調査に際して、原告は昭和二十七年中の収入および支出の状況につき合理的に説明をなさず、取引先の商店の所在、名称なども明らかにしなかつたので、正確な所得を把握するについて原告の協力を得ることができなかつたために、いわゆる資産増減法によつて昭和二十七年度における原告の所得金額を推計々算したのであり、その計算の要素たるべき数額(生計費については、総理府統計局作成の昭和二十七年度消費実態調査年報によれば、東京都における一人当りの年間平均支出額は金四万九千六百六十二円であるので、これにより原告の世帯(家族四名)の年間生計費を算出した。)は別表のとおりである。したがつて、被告は正当な根拠に基いて原告の昭和二十七年度における所得金額を算定して本件審査決定をしたのであつて、右によると原告は同年度において少くとも金二十七万四千二百三十二円の所得があつたものであるから、同年度における原告の所得金額を金十九万八千四百十四円と認定した本件審査決定には何らの違法原因も存しない。

右のように主張し、

立証として乙第一、二号証、同第三号証の一、二および同第四、五号証の各一ないし三を提出し、甲号各証の成立はいずれも知らないと答えた。

理由

一、原告が肩書地において文房具および雑貨類の販売業を営むものであること、原告が昭和二十七年度分の所得金額を金十五万円として江戸川税務署長に対し確定申告書を提出したこと、同税務署長において原告の右確定申告にかかる所得金額を金二十四万九千円と更正したので、原告は再調査の請求をしたが棄却されたこと、原告は右処分を不服として被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和二十九年三月十三日附で原告の所得金額を金十九万八千四百十四円と訂正する旨の審査決定をし、原告は同月十四日その旨の通知を受けたことはいずれも当事者間に争がない。

二、しかして、原告の右所得金額を認定するについて、被告がいわゆる資産増減法による間接的認定方法によつて原告の所得を推計計算したものであることは当事者間に争がなく、右認定方法によることができるものであることは所得税法第四十五条第三項(本件係争年度において施行されていた所得税法第四十六条の二第三項。)の規定により明らかである。そして、右資産増減による所得計算方法によれば当該年度における期首と期末の資産および負債を比較し、その純資産の増加金額に生計費、公租公課、保険料等の消費金額を加算して得た額が当該年度の所得であると言うことができる。

ところで別表(一)のうち備品、償却引当の項および同(三)のうち生計費の項記載の各数額を除くその余の同(一)ないし(三)の各項記載の各数額については原告もこれを認めて争わない。

しかして原告は備品の項の期末および差引残高らんの数額は各金六千円、償却引当の項のそれは各金三千七百六円であり、生計費は金十四万四千八百円である旨主張するので、いま、仮りにそれらの数額が原告主張のとおりで、あるとして原告の所得を算定してみると、

(一)  原告の昭和二十七年中における資産は金五万五千五百二十二円増加し、負債もまた金一万八千円増加したので結局、純資産増加額は金三万七千五百二十二円となること計数上明らかであり、

(二)  原告が昭和二十七年中に支出した生計費、積み立てた簡易保険料および納入した公租公課金は合計金十八万二千五百九十五円であることも計数上明らかであり、

(三)  よつて原告の昭和二十七年度分の推計所得金額は金二十二万百十七円であると言うことができる。

三、しかるところ、被告の審査決定にかかる原告の昭和二十七年度の所得金額は金十九万八千四百十四円であることは当事者間に争がないところであつて、これは前記算定額よりも低いのである以上仮りに所得金額算定の基礎である数額について原告の主張が正しいとしても本件審査決定が違法なものと言うことはできないと解するの外はない。

四、しからば、被告が原告の昭和二十七年度の所得金額を金十九万八千四百十四円と審査決定したことは相当であつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 入山実 裁判官 秋吉稔弘)

別表

(一)

<省略>

資産増 六一、七八九円

(二)

<省略>

負債増 一八、〇〇〇円

(三)

<省略>

消費金額合計 二三六、四四三円

(四) 事業所得以外の所得 六、〇〇〇円

差引額 二七四、二三二円

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